はじめに
卒業研究や修士研究で選ばれる課題は,授業で受ける印象よりも,遙かに幅広い分野から選ばれています.
幅広い分野からテーマが選ばれている最も大きな理由は,テーマが教員から与えられるのではなく,学生自身がテーマを選択していることです.
所属学生は,
(1)自分で完全にトピックを見つけてきて,それをseedsとして参考文献をあたり,研究テーマを選ぶ.
(2) 今井研のEvernote 『研究テーマ思いつき in 2022 for students』のリスト(現在No.84まで)にある,テーマから相談の上決定する.
(3) 今井研のプロジェクトの一部を担当し,それを卒業研究とする.
と言う形で,卒論テーマを決定します.
以下は,これまでの学生さんが行った研究のいくつかを例示しています.
From 2008--2023
(B4) システミックリスクを考慮したCDOのリスク評価
金融デリバティブの一種であるCDO(Collateralized Debt Obligation)について,金融システム全体のリスクに関わるシステミックリスクの影響を取り入れてその価格評価法を提案
日本企業のCDS(Credit Default Swap)のデータを用いて実証分析を行った
(キーワード)信用リスク・モデリング,クレジット・デリバティブ
(分野)金融工学,確率モデル,金融リスク管理
(B4) フランチャイズビジネスにおける最適契約
コンビニエンス・ストアに代表されるフランチャイズ契約において,本部と加盟店の間の最適な契約について分析した研究
商品の廃棄の問題を考慮して,ロイヤルティ契約の分析を行った
(キーワード) フランチャイズ,リアルオプション,最適契約
(分野) コーポレートファイナンス,ゲーム理論,リアルオプション
(B4) ゲーム理論的リアルオプションアプローチによる中小企業と大企業の特許権取得競争分析
大企業との競争の中で,中小企業の研究開発活動がいかにあるべきかをゲーム理論とリアルオプションアプローチを使って分析
(キーワード)研究開発,特許戦略,リアルオプション,ゲーム理論
(分野)コーポレートファイナンス,ゲーム理論,リアルオプション
(B4) 実質次元減少法によるQMCを用いたポートフォリオのリスク指標の推定
準モンテカルロ法と呼ばれる効率的なシミュレーション技法をもちいて,金融ポートフォリオのリスク指標を推定する方法を提案
(キーワード)準モンテカルロ法,金融リスク管理
(分野)金融工学,確率モデル
(M2) Optimal Cash Holdings with Dynamic Capital Structure (in English)
企業経営のおいて現金保有の意義をリアルオプションアプローチを使って分析
(キーワード)企業財務,最適資本構成,最適制御
(分野)コーポレートファイナンス,金融工学,OR、リアルオプション
(B4)Pricing Portfolio Credit Derivatives with Stochastic Recovery and Systematic Factor (in English)
信用リスクを管理するためのデリバティブに関して,デフォルト時の不確実性を考慮した上でモデル化し,価格式を導出
(キーワード)信用リスク,クレジット・デリバティブ
(分野)金融工学,確率モデル,金融リスク管理
(B4) レジームスイッチする金利のもとでの生命保険負債の経済価値評価
金利のモデリングにおいて,特にレジームスイッチと呼ばれる要素を取り入れて,生命保険の経済価値評価を行った.
(キーワード)金利モデリング,金融リスク管理,レジームスイッチ
(分野)金融工学,確率モデル,保険数理
(M2) Distributional Bounds for Portfolio Risk with Tail Dependence (in English)
リスク管理の中で注目を集める裾依存性(複数の企業が同時に非常に大きな損失を発生する可能性)の境界に関する理論研究
(キーワード)コピュラ,裾依存性,相関係数,極値理論
(分野)金融工学,金融リスク管理
(B4)A dynamic model of corporate financing and investment to expand under asymmetric information (in English)
企業の資金調達時に情報の非対称性がもたらす影響と最適なシグナリング戦略の導出
(キーワード)企業の資金調達,シグナリング,情報の非対称性,動的計画
(分野)こ-ポートフォリオレートファイナンス,リアルオプション,情報の非対称性とシグナリング理論
(M2) A Simulation-based Stochastic Programming Model for Hedging Financial Derivatives in a Lévy Market (in English)
金融デリバティブ商品の最適なヘッジ戦略を求めるためのシミュレーション技法の提案
(キーワード)準モンテカルロ,非線形最適化,金融デリバティブ
(分野)金融工学,ADPRL,金融リスク管理
(M2) Archimedean Copulas for Random Sums, The Quantitative Methods in Finance (in English)
金融モデリングで頻出するrandom sumの問題を一般的に扱った応用数学の研究
(キーワード)コピュラ,確率モデリング,シミュレーション
(分野)数理ファイナンス,金融工学,確率モデル,金融リスク管理
(B4) 心理会計を考慮した投資家の最適投資戦略
行動ファイナンスで提案されている,金融投資に関して心理的な損益認識を持った投資家を仮定し,その上で投資家の最適投資行動を示すモデルを提案
(キーワード)ディスポジション・エフェクト,最適投資問題,心理会計
(分野)金融工学,行動ファイナンス,心理学,最適化
(B4)経営者の自信過剰が投資意思決定に与える影響: 日本企業における実証分析
日本市場において経営者の自信過剰が,企業投資に影響を与えている可能性につ
いてのを実証分析
(キーワード) 自信過剰,アノマリー,企業経営,実証分析
(分野)行動ファイナンス,心理学,企業経営,コーポレートファイナン
(B4)自己励起過程を用いた極値アプローチによる高頻度為替データの分析
極値理論を金融データに適用して,高頻度為替データを用いた実証分析を行った
(キーワード) 高頻度取引,自己励起過程,為替レート,VaR
(分野)金融工学,統計分析,実証
(B4) Option Pricing: The Bayesian Approach With The NIG Lévy Process (in English)
日本市場において経営者の自信過剰が,企業投資に影響を与えている可能性につ
いてのを実証分析
(キーワード)オプション評価理論,金融モデリング,ベイズ分析,MCMC,レヴィ過程,実証分析
(分野)金融工学,パラメータ推定,確率過程
(M2) Constructing A New Hybrid Method of Particle Filter for Financial Time Series (in English)
パーティクル・フィルタリングと呼ばれるシミュレーション技術と準モンテカルロ法を統合したパラメータ推定手法を提案,その効率性を議論
実際の金融時系列に適用してその妥当性を検証
(キーワード) パーティクル・フィルタリング,準モンテカルロ,パラメータ推定,隠れマルコフモデル
(分野)金融工学,統計学,シミュレーション技法
(B4) 非完備市場の下でのプロスペクト理論に従う 投資家のオプション価値評価
取引されていない原資産が存在する非完備市場において,プロスペクト理論
に従う投資家のオプション価値評価モデルを構築
(キーワード)プロスペクト理論,限界効用無差別価格
(分野)行動ファイナンス,心理学,金融工学
(B4)金融リスク管理における多期間ポートフォリオ戦略:近似動的計画法を用いた解法
デリバティブの複製やポートフォリオ構築問題で見られる離散時間の多期間ポートフォリオ構築問題における効率的な解法を提案
(キーワード) ADP,最適化,動的計画法
(分野)金融工学,ADPRL
(D)プロスペクト確率優越に整合的なリスク尺度 Truncated Expected Shortfall の提案
日本市場において経営者の自信過剰が,企業投資に影響を与えている可能性につ
いてのを実証分析
(キーワード) プロスペクト理論,リスク管理,確率優越,リスク尺度
(分野)保険数理,応用数学,行動ファイナンス
(M2)マーケットファクターがCDSスプレッドの変動の分布に与える影響の分析
日本市場において経営者の自信過剰が,企業投資に影響を与えている可能性につ
いてのを実証分析
(キーワード)金融デリバティブ,信用リスク・モデリング,分位点回帰,実証分析
(分野)金融工学,時系列分析,パラメータ推定
(M2)近似動的計画法を用いたマーケットインパクト影響下での最適執行戦略の導出
本研究では一時的/恒久的インパクトと過渡的インパクトのそれぞれの場合について、マーケットインパ
クトの変化が執行戦略にどのような影響を与えるかに
ついて考察
(キーワード)ADP, マーケットインパクト,最適執行,ベルマン方程式
(分野)金融工学,ADPRL,
(M2)米国金先物市場におけるアメリカンオプションの価格評価分析
米国金先物市場におけるアメリカンオプションの価格評価分析
(キーワード) 金融デリバティブ,実証分析,レヴィ過程,金先物
(分野)金融工学,金融モデリング,ADPRL
(B4) リアルオプションアプローチによる平均回帰過程の下での投資タイミングの分析
リアルオプションの原資産が平均回帰性を持つ場合の最適投資タイミング影響に関する分析
(キーワード)最適な実物投資,平均回帰過程,タイミング・オプション
(分野)コーポレートファイナンス,リアルオプション,金融工学
(M2) An Empirical Analysis of the Dependence Structure of International Equity and Bond Markets Using Regime-switching Copula Model (in English)
国内外の株式および債券への投資を検討する場合に,それぞれの危険資産の間の依存関係がポートフォリオのリスクのどのような影響を与えるかについてモデルを構築し,実証分析を行う.
(キーワード)国際分散投資,コピュラ,レジームスイッチ,実証分析
(分野)金融工学,最適投資,金融モデリング,統計的パラメータ推定
(M2)An Empirical Examination of Capital Structure for Multinational Firms: Evidence from Japan (in English)
日本の多国籍企業の資本構成に関する実証分析
(キーワード) 多国籍企業,最適資本構成,実証分析
(分野)コーポレートファイナンス
(M2)A study on a membrane ceilings business under ambiguity (in English)
個別企業の最適な投資戦略に関するケーススタディ
(キーワード) リアルオプション・アプローチ,ambiguity,最適行使
(分野)コーポレートファイナンス,金融工学
(D1)Valuing Investments in Digital Business Transformation (in English)
リアルオプションアプローチによるデジタル・ビジネス・トランスフォーメーションのモデル化とその定量化
(キーワード)リアルオプション分析
(分野)コーポレートファイナンス,インフォーメーションテクノロジー
(B4) 仮想通貨市場内の事件が資産価格の相関に与える影響
Dynamic Conditional Dependence (DCD) モデルを用いたビットコインと株価指数,債券,金,他
の仮想通貨の価格変動の分析
(キーワード)仮想通貨,動的コピュラ
(分野)実証ファイナンス
(B4)レジームの転換を考慮に入れたハイブリッドインフォメーションアプローチによる投機的格付け社債のスプレッドの予測
信用リスクのモデリングと,低格付けの社債データを利用した実証分析
(キーワード)信用リスク,レジームスイッチングモデル,格付け
(分野)金融工学,実証ファイナンス
(B4)個別企業に関するニュースのセンチメントがその企業の株価収益率に与える影響の分析
日本の株式市場における,個別の企業に関する新聞記事のセンチメントが,その企業の株価に与える影響の分析
(キーワード) センチメント,機械学習(Natural Language Understanding)
(分野)行動ファイナンス,コーポレートファイナンス
(M2)マーク付き多次元Hawkes 過程を用いた高頻度注文板データの分析
東京証券取引所の板データ(FLEX Full)を用いた,高頻度データによる実証分析
(キーワード) 高頻度取引(HFT),マーク付き多次元Hawkes 過程
(分野)金融工学,実証ファイナンス
(B4)ESG投資に関する実証分析
ESG,実証ファイナンス,
(D3)Innovation in the Digital Economy: Valuing Investments in Digital Business Models under Uncertainty
博士論文
(キーワード)デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション,リアルオプション,リスク管理,
(分野)コーポレートファイナンス,金融工学
(B4)多次元NIG過程を用いたエイジアン・バスケット・オプションに対するマルチレベルモンテカルロ法の実装と分析
MLMCと呼ばれる新しいシミュレーション手法に関する研究
(B4)ブラウン半定常過程に対するAdaptive Hybrid Scheme
数理ファイナンス分野の研究.新しい推定アルゴリズムの提案
(B4)役員報酬にESG指標を取り入れることが企業の価値創造に与える影響
実証ファイナンス分野,標準的なコーポレートファイナンスの研究の流れ
(M2)PANDEMIC BOND PRICING UNDER STOCHASTIC INFECTION AND TRAVELERS MOVEMENT
Abstract Pandemics, which have occurred more frequently than expected over the past two decades,
have caused significant damage to the global economy. As a result, the debate on how to respond to the
next pandemic is taking place in all sectors of society. Developing effective risk management and financial
instruments that enable immediate countermeasures during an early stage of pandemic is an urgent issue
in the financial sector. The pandemic bond issued by the World Bank in 2017, known as the World
Bank Pandemic Catastrophe Bond (WBPB), was expected to act as an effective risk management tool.
This paper extends the standard pandemic risk model and proposes a new framework for properly valuing
financial instruments such as pandemic bonds. To discuss the effectiveness of this framework, we specifically
calculate the theoretical price of WBPB and compare it to the actual issue price. In addition, sensitivity
analyses are conducted to clarify the characteristics of pandemic bond prices. The analyses reveal two
things. First, the market price of pandemic risk is lower than that of conventional catastrophe risk. Second,
the price of pandemic bonds decreases monotonically with the increasing uncertainty of the epidemic and
increases monotonically with the increasing rate of decline in the number of travelers.
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2023 JAROS学生を主体とした研究部会: 2024年3月23日 青山学院大学
- 保険会社の課題解決のための偶発転換CAT債の提案 )(M1発表)
-リアルオプションアプローチを⽤いた CVCの価値評価モデルの構築(M1発表)
- ニューラルネットワークを用いた炭素の社会的コストのモデル分析及びリアルオプションへの応用可能性(M1発表)
- 航空券デリバティブの無差別価格評価と消費者のリスク選好評価 (B4発表)
- 降水量の空間的な相関性を考慮した 水害CAT ボンド評価モデル (B4発表)
- 幾何 マルチフラクタル ブラウン運動 の インプライド・パラメータ 推定 と ビットコイン の 価格予測 への応用 (B4発表)
- 日本の株式市場における東証市場別ハーディングの実証分析 (B4発表)
(M1)偶発転換CAT債の評価と分析,JAFEE2023 冬季大会発表, 東京大学駒場キャンパス
(M1)機械学習を用いた炭素の社会的コストのモデル分析,JAFEE2023 冬季大会発表, 東京大学駒場キャンパス
(M2)極値深層学習を用いた炭素の社会的コストの次元削減法,日本オペレーションズリサーチ学会 2024年秋季研究発表会, 南山大学,2024年9月11日
(M2)リアルオプションアプローチを用いたCVCの価値評価, 日本リアルオプション学会,2024年大会,同志社大学,2024年11月30日--12月1日,forthcoming
概要:CVC(Corporate Venture Capital)とは,企業がベンチャー企業に対して行う株式投資を指す.CVCの主要な目標の一つに,ベンチャー企業との協働を通じてオープンイノベーションを実現し企業の競争力を強化する「戦略目標」がある.戦略目標に注目したこれまでの研究では,CVC投資がイノベーションに寄与すると実証してきたが,イノベーションが企業価値全体にどう波及し価値を生み出すのかは明らかになっていない.本研究では,親会社によるCVC投資プロジェクトのモデルを構築し価値評価を行う.不確実性として,親会社とベンチャー企業の企業価値が組み込まれる.イノベーションはベンチャー企業を買収することで獲得できるとし,買収オプションの価値を評価することでCVC価値を解析的に評価できる.単にリスクの高い投資だと見なされることもあるCVCにとって価値評価は重要で,本研究はその点で示唆を与える.
(M2)損害保険会社の災害保険プログラムの設計~プロテクションギャップの縮小~, 日本リアルオプション学会,2024年大会,同志社大学,2024年11月30日--12月1日,forthcoming
概要:プロテクションギャップは,自然災害による経済的損失の総額と,保険による補償額の差と定義されている.このギャップの拡大は,経済的混乱や社会的脆弱性の長期化を引き起こしている.損害保険会社はリスク移転の手段として,再保険とCAT債を利用している.これらに関する研究は盛んに行われているが,社会的課題であるプロテクションギャップは明示的に組み込まれていない.
そこで本研究では,損害保険会社がプロテクションギャップの縮小に向けて,再保険とCAT債をどのように組み合わせれば,最適な災害保険プログラムを構築できるかを検証する.最適な災害保険プログラムとは,損害保険会社の株主価値を最大化するものを指す.
最終的に,官民連携でプロテクションギャップ縮小に取り組む際に,損害保険会社における自然災害リスク管理の方針を提示する.
(M2)深層学習を用いた炭素の社会的コストの次元削減法とグローバル感度分析, 日本リアルオプション学会,2024年大会,同志社大学,2024年11月30日--12月1日,forthcoming
気候変動をもたらす温室効果ガスの排出を削減するためのコストは、削減する時点で発生するのに対し、削減による便益は数十年乃至数百年単位で発生します。炭素の社会的費用(Social Cost of Carbon; SCC)は、そのような将来の便益を測るための指標の一つとして知られています。具体的には、統合評価モデル(Integrated Assessment model; IAM)と呼ばれる、気候学などの自然科学と経済学などの社会科学が統合された数理モデルによって計算されます。本研究では、深層学習を用いて統合評価モデルに対して次元削減、具体的には非線形主成分分析を行います。これにより、企業や政策立案者は、気候変動の多大なるリスク因子から重要な因子を考えることが可能となり、将来の気候変動の緩和及び適当の意思決定において重要な示唆を得ることができます。
(Project Carbon)マクロ要因を考慮したリアルオプション分析フレームワーク:電力価格モデリングの統合的アプローチ 日本リアルオプション学会,2024年大会,同志社大学,2024年11月30日--12月1日,forthcoming
本研究は、再生可能エネルギー投資におけるリアルオプション分析に新たなフレームワークを提案する。従来のリアルオプション研究では、電力価格の不確実性を幾何ブラウン運動などの確率過程として捉えてきた。一方で、電力価格には、化石燃料価格をはじめとする様々なマクロ要因の影響を受けることが知られているが、従来の手法では、この影響は確率過程のパラメータに暗黙的に包含されている。リアルオプション分析の枠組みを維持しつつ、電力価格の確率過程にマクロ要因の影響を明示的に組み込む新たな手法を提案する。