本部会の趣旨

現在,世界の多くの都市で,車中心から人中心の「歩行者に優しい」まちづくりが進められています.都市計画学をはじめとする多くの分野で実都市を対象とした研究が盛んに行われている一方で,現実を抽象化した数理モデルによる研究の蓄積は十分ではありません.本部会では,オペレーションズ・リサーチのアプローチを用いて,歩行者の視点から都市・建築空間のデザイン手法に関する理論的および実証的な方法論を追求し,既存のアプローチを補完する新たな知見の発信を目指します.

お問い合わせ先・連絡先

    部会主査:田中健一(慶應義塾大学)
    E-mail:
    部会幹事:長谷川大輔(東京大学)
    E-mail:

本部会への参加方法

部会への参加には,事前のご登録をお願いしております.参加手続きに関するご案内は,日本OR学会および都市のORのメーリングリストにて行っておりますので,参加をご希望の方はメーリングリストへのご登録をお願いいたします.

第4回研究会

開催概要

講演情報

【講演1】15:00–15:30

特定範囲の経路長を達成する多様な経路集合の生成

*武藤慧 (中央大学大学院),天野雄樹 (中央大学),今井桂子 (中央大学)

日々の散歩や運動で同じ道を通る単調さは習慣化の妨げとなる.本研究は,この問題を解決するために,指定した距離範囲でできるだけ重複の少ない多様な経路の集合を生成する手法を提案する.経路間の類似度を共通する道の長さで定義し,全体の類似度が小さくなる経路集合を発見的なアルゴリズムで探索する.実際の都市の道路網データを用いた実験により,実用的な経路群を生成できることを確認した.本手法は,日々の散歩ルート推薦や自動運転のテストシナリオ生成などへの応用が期待される.

【講演2】15:30–16:00

複数の活動空間における建造環境と歩数の関係性
―居住地・勤務地・鉄道駅周辺の建造環境に着目して―

*橋本侑京(東京大学大学院),吉田崇紘(東京大学),山田育穂(東京大学)

歩行促進のために,周辺の建造環境を向上させる取り組みが重要視される.しかし,先行研究の多くは主に居住地周辺の建造環境のみに着目しており,一日の活動空間を十分に考慮できていない.そこで本研究は,居住地以外の活動空間として,勤務地,居住地と勤務地の最寄り駅周辺という4つの活動空間の建造環境指標と歩行との関係性を分析することを目指す.歩数データと複数の活動空間の建造環境指標を,Elastic Netという変数選択手法に適用することで,どのような変数が歩数と関係するのかを分析する.

*** 休憩 ***

【講演3】16:20–17:20

歩行者から見て街路沿いの建物の高さと壁面位置が揃っている場所はどこか?

薄井宏行(千葉工業大学 / JSTさきがけ研究員)

街路沿いの建物の高さと壁面位置は,街路景観を形成する主要な要素である.本研究では,街路景観の水平方向と鉛直方向の寸法である建物の壁面後退距離と高さを「街路景観のスケルトンの寸法」と定義し,街路上の歩行者から見た街路景観のスケルトンが調和している/いない場所を特定し,地図上で可視化をするための一連の方法を開発した.当日は,東京23区における複数の街路に適用した結果を報告する.

第3回研究会

開催概要

講演情報

【講演1】15:00–16:00

自治体による公共トイレの配置計画の比較分析
―シミュレーションによる配置方針別のアクセシビリティ評価―

塩﨑 洸(株式会社構造計画研究所)

近年公共空間の利便性やバリアフリー化の観点から公共トイレに注目が集まっている.本研究では自治体における公共トイレの配置計画に着目し,文献調査・ヒアリング調査を通じて「空白地帯解消型」「公園選別型」など配置方針を類型化する.さらに人流データを用いたシミュレーションにより各配置方針のアクセシビリティを評価し,公共トイレ配置における地域性・官民連携による差異について論じる.

*** 休憩 ***

【講演2】16:20–17:20

都市の歩行促進要因を踏まえた健康まちづくりに関する研究

石井儀光(国土技術政策総合研究所)

身体活動の低下を原因とする肥満や慢性疾患が問題となるなか,都市環境と身体活動との関係を裏付ける研究が1990年代以降蓄積され,それらと計画実務をつなぐため,諸外国では身体活動促進の観点からまちづくりのデザインガイドが作成され,自治体等に参照されている.しかし,これらをそのまま日本の都市に適用することは妥当でない.そこで,日本の都市における身体活動の促進・阻害要因を踏まえ,身体活動を促すまちづくりを普及するために科研費「都市の歩行促進要因を踏まえた健康まちづくり支援ツールの開発」(研究代表:東京大学樋野公宏先生,研究期間:2018-2022)において「身体活動を促すまちづくりデザインガイド」を作成した.本講演では,このデザインガイドの紹介を中心に,歩行促進と健康まちづくりに関する話題提供を行う.

第2回研究会

開催概要

講演情報

【講演1】15:00–15:30

アクティブモビリティの選択を考慮した施設密度と移動距離に関する数理的分析

*田沼宏行(慶應義塾大学大学院),田中健一(慶應義塾大学)

近年,徒歩や自転車といった身体活動を伴う交通手段であるアクティブモビリティ(AM)が,健康や環境の観点から注目を集めている.本研究では,移動距離の増加に伴ってAMの選択率が減少する傾向を捉える数理モデルとして,ガウス型曲線を提案する.連続平面上に一様分布する人々が最寄りの施設を利用するという状況を想定し,施設密度とAMの分担率および平均移動距離との関係を解析的に導出する.得られた解析解に基づき,AMの利用を促進するうえで望ましいヒューマンスケールの施設密度について考察する.

【講演2】15:30–16:00

GPSデータに基づく発生集中交通・滞在移動特性の街区・商業集積地間比較

*竹内真雄(筑波大学大学院),Sunyong Eom (Hanyang University),鈴木 勉(筑波大学)

近年,都市部を含め買い物弱者の増加や商店街の衰退が課題となっており,徒歩でのアクセス性の確保や賑わいの創出が求められている.そのためには,各地域に滞在する人々の量や行動特性の実態を詳細に把握することが重要となる.本発表では,東京区部を例に,GPSデータを利用した建物用途別の発生集中量推定の高精度化や,商業集積地における業種構成に応じた人流パターンの特徴づけの結果を紹介し,歩行との関連を論じる.

*** 休憩 ***

【講演3】16:20–17:20

歩行による死亡率低減効果に着目した施設配置

栗田 治(慶應義塾大学)

近年,国内外の疫学研究が歩行による死亡率の低減効果を解明しました.講演者はこのことに着目し,①地域住民にできるだけ目標距離を達成していただくための施設配置,②地域住民の平均死亡率を目標とする水準に抑えるための施設配置,という2つのタイプのモデルを創案しました.これらについて,1次元空間ならびに2次元の矩形領域における最適解がもつ特性を解明した内容をお話しします.特に矩形領域において中央の商店街の長さが住民の平均死亡率に影響を与える様子を記述した内容は,今後の地区設計に示唆を与えるかもしれません.

第1回研究会

開催概要

講演情報

【講演1】15:00–16:00

歩行からみた都市空間の評価とインフラ設計に関する数理モデル分析

田中健一(慶應義塾大学)

現在,車中心から人中心の「歩行者に優しい」まちづくりが,世界的に注目されている.都市計画学をはじめとする学術分野においても,実際の都市における歩行環境整備の事例や,都市環境と歩行者行動の関係を追究した研究が盛んに行われており,有用な知見が数多く報告されている.一方で,現実を抽象化した数理モデルによるアプローチはまだ限定的である.本発表では,歩行者の視点に立ち,都市空間の評価やインフラ設計の指針となる数理モデル分析の可能性について述べる.

*** 休憩 ***

【講演2】16:20–17:20

都市の歩行者制御のための人流データ計測とモデル化

長谷川大輔(東京大学)

近年,賑わい,環境,防犯などさまざまな面からウォーカブルな街づくりや15分都市といった,持続可能な都市設計のために,歩行者の流れを分析することが重要となっている.本発表では,ヒューマンスケールの都市計画を実現するために活用される人流データについて,データの特徴および都市計画に活かすための計測方法を中心に,計測結果を応用した都市評価結果,数理最適化手法について紹介する.