
金融工学と最適化
本書はいろいろな資産もしくは証券に対してどのように投資していけばよいか(ポートフォリオ選択問題)を、数理計画法を用いて解く道筋(ポートフォリオ最適化)を示してくれている。
本書は2部構成になっており、第T部では1期間モデル(「現在」あるいは「将来のある1時点」のみを考えるモデル)について平均・分散モデルを中心に解説している。第U部では多期間モデル(「現在」と「複数の将来時点」を考えるモデル)を扱っている。
第T部は第1章〜第5章で構成されている。第1章では馴染みの深い回帰分析を取り上げて最適化の意味や数理計画モデリングと結びつけている。第2章では
ポートフォリオ最適化を行うときに必要となるリスクとリターンを取り上げている。そこでは、リターンを期待収益率、リスクを収益率の分散あるいは標準偏差
としたときのそれらの計算方法を示している。第3章では、リスクを横軸、リターンを縦軸に取ったときのリスク・リターン空間上での効率的フロンティアの求
め方について述べている。第4章では、まず効用関数について論じ、効用関数の代替物として平均・分散モデルを取り上げ、最適ポートフォリオを求めるための
定式化を示している。すなわち、「要求される期待収益率を確保しつつ、リスク(収益率の分散)を最小化する」数理計画問題と捉えている。また、証券のリ
ターン生成プロセスを記述するモデルとしてインデックス・モデルについても触れている。第5章では、分散以外の様々なリスク尺度(下方半分散、絶対偏差、
不達成確率など)を取り上げている。
第U部は第6章〜第9章で構成されている。第6章では多期間モデルの概要を示すとともに資源配分問題の概要についても述べている。しかし、多期間モデル
を直接解くことは難しいため2種類の近似モデルすなわちシナリオ・ツリー型モデル(第7章)とシミュレーション型モデル(第8章)を取り上げている。シナ
リオ・ツリー型モデルでは、各時点での状態遷移を洗い出し、t時点で考えうる状態ごとに(t+1)時点の状態がまた複数個あるというツリー構造を考えて最
後の時点における状態に至る経路をシナリオと捉え、シナリオごとあるいは途中の状態ごとに各時点の投資比率を求めていくモデルである。一方シミュレーショ
ン型モデルでは発生させた乱数により決まる資産ごと、時点ごとの収益率を用いて各時点の投資比率を求めていくモデルである。しかし、いずれの方法も投資比
率を直接求めようとすると非凸非線形制約となるので、投資額あるいは投資量を決定変数にすることにより線形問題として捉えられる方法を示している。
最後に第9章で多期間資源配分問題の拡張としてALM(asset and liability management)問題について述べている。
このように、本書は金融・証券分野の中で最も代表的な数理計画問題であるポートフォリオ最適化問題の基礎から応用まで詳しく解説しており、途中で挿入さ
れている計算例や脚注を通じて読者の理解を助けているという点で、この方面の勉強をしたいと考えている学生にも実務家にとっても有用な書であるといえる。
なお著者からは「OR学会員で、授業に利用されることを目的とする教員に対し、PowerPointの補助教材の提供を行う。その際具体的に教科の内容
を明示され、学生も含めすべてのコピーは行わない旨を条件とする。枇々木(hibiki@ae.keio.ac.jp)宛に電子メールを出せば、添付ファ
イルで送付する。」とのメッセージをもらっています。
(上田 徹)
(「オペレーションズ・リサーチ」2001年11月号 より) |