枇々木規雄
: 財務リスクを管理するためのALMモデル --- 銀行のALM(資産負債管理)に対する数理計画法を用いたモデル・アプローチ, 1995年度 慶應義塾大学 博士論文(理工学部管理工学科).
概要
近年の金融の自由化や国際化に伴い、金融取引にかかわる多くの企業は増大する財務リスクの管理を行う必要に迫られている。こうした財務リスクを管理するために考え出されたものとして、ALM(資産負債管理)がある。経営目標の達成を目指すために、「リスク管理を考えながら、資産と負債を今後どのようにすべきか」というALMが対象とする問題に対し、従来の解法であるシミュレーション法では、多くの試行錯誤なしには、そのための最適な方策を導出できない。そこで、この問題に対するより良い解法(手法)として、本論文では数理計画法、その中でも特に多目標を取り扱うことができる目標計画法を基本的な方法論とする最適化手法を提案している。すなわち、主に銀行のALMを対象として、問題の構造(しくみ)をモデル化するとともに、その実用化のための手だてを図ることを本論文の目的としている。そして、この目的を達成するために、ALMモデルの構築およびそれに付随する必要な研究を行っている。そこでまず、銀行の経営目標の達成と関連して、ALMが対象とする中長期的なリスクを管理するために、金利変動リスク、流動性リスク、信用リスク、為替リスクを管理対象として、計測・評価するための指標化を行っている。そして、これらのリスク指標を利用することによって、これらリスクをより良く管理できることを明らかにしている。ついで、これらの指標を利用して、ALMの問題を解決するために、実際に銀行が置かれている状況を反映し、かつ経営の意思決定に役立つALMモデルを構築している。さらに、ALM活動の実践上の問題も考慮して、本部が銀行全体としての資産と負債とを管理するモデルだけでなく、支店活動も含めたモデル化も行っている。これらは数理計画モデルとして定式化している。そして、モデルの定式化やその特徴に対する検討および数値実験の結果の考察から、これらのモデルはALMの問題を解決するのに有用性の高いモデルであることを明らかにしている。ALMに不可欠なコンピュータシステムへの対応も考察し、モデルの実務への適用も示唆している。また、銀行以外の企業(生命保険会社など)に対して、提案するALMモデルの応用可能性についても検討を加え、ある程度一般性を持つモデル化であることを示している。以上の研究成果から、本論文で提案したALMに対するモデル・アプローチは、財務リスク管理を必要とする企業経営にとって、その中でも特に銀行経営の意思決定に役立つ方法として、重要かつ有用であるということを明らかにしている。