枇々木規雄:下方リスクを考慮したポートフォリオ最適化モデル
, 慶應経営論集, Vol.16, No.2(1999年2月), pp.85−114.概要
ポートフォリオ選択問題に対する代表的な数理計画モデルには,平均・分散モデルや目標収益率に対する不足分をリスクと考える下方(ダウンサイド)リスクモデルなどがある。本研究では,目標収益率に対する不足分(下方リスク)を小さくしたいというモデル化のために,目標ベクトル法の定式化を利用したMOLD モデル(平均・オープンL偏差モデル)を提案する。MOLDモデルは次のような特徴を持っている。
(1) 目標収益率を下回る収益率の大きさをリスクとして考えているために,リスク概念が受け入れやすいと同時に,その平均値と最大値の組み合わせとしてリスク尺度を定義しているので,分かりやすい。
(2) 線形計画問題として定式化できるので,大規模な問題でも少ない計算時間で解くことができる。
(3) 投資家の想定する効用(関数)に関して,同じように目標収益率に対する不足分をリスクと考えるMLPMモデル(平均・下方部分積率モデル)と関連付けることができる。
そして,東京証券取引所第一部全上場株式銘柄のヒストリカルデータを用いた数値実験により,MOLDモデルの特徴付けを行う。さらに,MLPMモデルとの関係について検討し,ヒストリカルデータを用いてMOLDモデルとMLPMモデルの比較実験を行う。MOLDモデルはMLPMモデルとほぼ似たようなポートフォリオを組むことができる一方で,MLPMモデルにはない特徴を持つポートフォリオを生成するモデルであることが分かった。